監督:ロバート・ワイズ
出演:マイケル・レニー(クラトゥ)
パトリシア・ニール(ヘレン・ベンソン)
ヒュー・マーロウ(トム・スティーブンス)
サム・ジャッフェ(ジェィコブ・バーンハート教授)
ビリー・グレイ(ボビー・ベンソン)
フランシス・ベイビア(バーレイ夫人)
ロック・マーティン(ゴート)
(感想)
これまで、宇宙人が地球にやってくる映画は何本も見てきましたけど、侵略目的ではないというのは結構少ないんですよね。しかも、その外見も、お馴染みのグレイタイプでもなければ、イカでもタコでもなく、どう見ても人間の男です。言葉も、英語をバリバリに話してきます。
これは、人間達を安心させる為に、同じ姿に化け、同じ言葉を学習してやってきた、という事なんでしょうね。さすが宇宙人、“外国に旅行に行きながら、その国の言葉を全く知らない”みたいな連中とは格が違います。
そして、やって来た目的が、最近、ようやくまともな科学力を手にしたような、ちょっと上等なサル共に、ザ・ユニバースを代表して、一言「調子に乗るなよ」的な挨拶をしに来たという、実に友好的な理由です。
そもそも、宇宙人が「話をしにきた」というのは、他の数多のSF映画と比べても、かなり異色のように思えますね。製作年度的には、SF映画の元祖ぐらいの頃の映画なのに。
クラトゥが、人間社会に混じって生活をしてみるというのが主なストーリーなんですけど、これも中々に面白い展開でした。自分の正体を隠して市民と接するというのは、何か夢のある話だなとか思うんですよね。例えば、自分は本当は凄い能力を持っていたり、凄い身分だったりして、その辺の連中とは実は一段も二段を上にいるんだぜという余裕を持って過ごせるというのは実に羨ましいです。
さて。結局、クラトゥは具体的に何を言いに来たのかと言いますと、要するに、最近地球人が開発した「核兵器」というものが、もし後に宇宙に進出した際に使われたりすると、他の星々に迷惑がかかるという事で、「“核”は、外で使うな」というのを警告に来たんです。
人間達が、銃や戦車、飛行機などで殺しあう分は、自分の星の中でやってる事だから一向に構わないけど、他の星に被害が及ぶような行為は許さない、というわけなんです。
かなり壮大な話ですけど、でも、そのまま、地球の中の、各国々間の話に置き換えられる話でもあるんですよね。自分の国の中だけで争ってる分には、それはその国の問題で、自己責任だからいいけど、他の関係無い国を巻き込むのは問題だというわけです。
他国に被害を与えるような行動をとらなければ、戦争も起こらなくなるわけで、このクラトゥの話こそが、世界平和実現のヒントになってるんですよね。まあ、考えてみれば当然の事を言ってるだけなんですけど。
ですが、そんな高尚な呼びかけが、野蛮で粗野な地球人に聞き入れられるわけがありません。そもそも、この映画では、クラトゥがスピーチを行うという段階まで辿り着けませんでしたからね。もう、外からやってくるのは敵に違いないとばかりに、まず、クラトゥが地球に足を踏み入れた直後に、ビビった兵士の発砲によって負傷してしまいますし、最後も、「世界の電力を止める」なんて大技を見せたものだから、またビビってしまった軍に襲われるハメになってしまうんです。
この広い宇宙から、はるばる平和の話をしにやってきた宇宙人が、話を聞いてもらう所までいかれないというのは、中々絶望的な話じゃないですか。「我々の知的レベルはまだまだそんな程度なのか」と。ストーリーを宇宙人目線の話にする事で、人類にとっての「まだ進化の余地がある点」が浮き彫りにされたかのようです。
でも、正体の分からない相手を恐れるという気持ちもよく分かる所ではありますけどね。放っておいて、もし脅威になられでもしたら大変です。クラトゥも、地球人よりもはるかに進んだ知恵と科学力を持っているのなら、人間の心理についてももっと勉強してから来るべきでしたね。そして、全世界に一斉に声明を送る事の出来る、例えばテレビやインターネット的な装置も持ってくるべきでした(まさか、まだ開発してないなんて言わないだろうな)。
クラトゥに対する地球人の態度も問題でしたが、逆に、クラトゥの方も、地球人に対して、「平和になれ。さもなければ、地球を滅ぼす」的な脅迫をしている辺りは、「どうなんだろう」と思ってしまいますね。こいつは命の重みを本当に理解しているんだろうか。
そもそも、ゴートに地球を滅ぼすパワーがあるというのがどうにも信じられないですよね。あの、アシモ並のトロい動きを見てると(笑)。でも、地球の電力を一気に止めるという事が出来るんなら、もっと凄い破壊を巻き起こす事もきっと出来るんでしょうねぇ。
ところで、電力が止まった、“地球の静止しているシーン”において、「各地で色々な乗り物や機械が動かなくなって、慌てふためく人間達」というのが、怖い音楽に乗って描写されるんですけど、その途中で、牛の乳搾り機が停止して困ってる農場のオヤジの映像が出てきたのには驚きましたね。しかも、背景には、いかにも大変な事が起こってると言わんばかりの大仰な曲を鳴らしながらですよ。何か、「なんてセンスだ!」と感心してしまいました。
そう言えば、冒頭にも、「円盤着陸地点に大急ぎで向かう戦車が、カーブを軽くドリフトして曲がっていく」なんて場面が出てきてビックリしたものでした。
こんなに古い映画なのに、今見ても新鮮な驚きがある映像が出てくるんですから凄いですよねぇ。内容とはあまり関係無い場面でしたけど。