フライング・ヴァイラス
<FLYING VIRUS>
01年 アメリカ映画 95分

監督・脚本:ジェフ・ヘア
出演:ガブリエル・アンウォー(アン・バウアー)
   クレイグ・シェイファー(マーティン・バウアー)
   ルトガー・ハウアー(エゼキエル)
   デビッド・ノートン(ドクター・ノース)
   ジェイソン・ブルックス(スコット・ターナー)
   マーク・アデイア−リオス(ロコ)
   アダム・ワイリー(アダム)
   リサ・ウィルホット(サンディ)
   パトリシア・リジー・ビトンディ(ナオミ)
   ロビン・ウィルソン(ミッシェル)
   ダンカン・レガー(セイビア)

(あらすじ)
ブラジルの熱帯雨林の開発を巡り、アメリカ国務省と現地民の間で抗争が勃発していた。油田施設の破壊工作などにより多大な損害を被ったアメリカ側は、邪魔な部族民を殺す為に遺伝子操作で凶暴な殺人蜂を作り出していた。

現地で抗争を取材しているジャーナリストのアン・バウアーは、軍の連中に命を狙われ、銃で撃たれたうえに殺人蜂の襲撃に遭ってしまう。
病院にかつぎ込まれたアンだが、驚くほど早く傷が回復していた。この回復力は蜂の毒に原因があると考えた野心家の担当医ノースは、軍から蜂の入ったケースを盗むと、それを持ってニューヨーク行きの飛行機に乗り込む。
そして、お約束通り、ケースから蜂が漏れ出して飛行機内は大パニックとなる。
さらに、乗客の中には、アンの別れた亭主も乗っているのだった!

一方のアンは、殺人蜂の解毒剤を持っている、影の部族と呼ばれる男と接触するのだった。

(感想)
殺人蜂の襲撃という動物パニックに、舞台が飛行機というエア・パニックの要素を合体させた意欲作です。
この殺人蜂がなかなか強力な奴で、ちょっと刺されただけで、数秒で毒が回って意識不明になってしまうんです。もちろん、放っておいたら数時間で死亡します。しかも、ただの強力な毒を持ってる蜂ではなく、遺伝子操作で作られた殺人蜂なので、もう、刺す気満々で襲ってくるから厄介です。
さらに、舞台が閉ざされた空間である旅客機内という事で、登場人物にとってはまさに逃げ場無しの絶望的状況です。ただ、解毒剤がすでに開発されているというのがせめてもの救いでしょうかね。

さて、この映画、主人公はガブリエル・アンウォー演じるアンなんですが、この人は飛行機には乗っていません。もちろん、後にステルス機から乗り移ってくるなんて真似もしません(笑)。その代わり、飛行機にはアンの元夫が乗っていて、一般市民のはずのこいつがなぜかリーダーシップを発揮して、事態に先頭に立って対処しだします。
なので、「動物パニック+エア・パニック」がウリの映画かと思いきや、平行して地上のシーンも描かれていくんですね。ちなみに、地上のシーンでは、アンが敵に襲撃されたり、事件の謎に迫ったり、解毒剤を持ってる男に接近したりと、いろいろあります。
機内での蜂との攻防だけでも映画になりそうな気もするんですが、敢えて2段展開としたのは、監督がサスペンス&パニックシーンの描写より、爆破アクションに入れ込んでるせいなのかな、という気がします。
何しろ、飛行機の飛んでる姿を映したシーンも、蜂の襲撃シーンも全部安っぽいCGで済ませているのに、爆破は本物の爆破ですからね。まあ、半分は『ランボー2』を始めとする、他のアクション映画からの戴きなんですが(笑)。
冒頭に、軍と現地民との激しい戦闘シーンが起こるんですが、これがかなり時間が長ければ、迫力も結構あるんです。その後も定期的にアクションシーンが挿入されたりと、動物パニックよりもアクション映画を見てるような雰囲気になってきます。また、戦闘シーンでのスタントマンの仕事っぷりも見事です。現地民が虐殺されるという悲惨な光景が繰り広げられているシーンを見てる時でも、爆煙の前を飛び交う現地民役のスタントマンの仕事ぶりに思わず感心してしまうほどです。

誰もがメインだと思っていた機内の蜂との攻防は、実のところそんなに盛り上がりません。乗客全員をファーストクラスに移し、エコノミーとファーストクラスの間の通路に布を張り巡らせて壁を作ってしのぐ事になるんですが、結局、サスペンスが「それが破られたら終わり」だけしか無いので、機内の人達も特にする事が無いです。逃げる事も出来ないので、ただ座っているだけ。
一度、隙間から大群が襲撃してきたんですが、パニックになった若い女が消化器をぶっ放したところ、それで全滅してしまいます。弱ッ!(笑)
実はこの時点では、近辺にいたのが死に絶えただけだったんですけど、ここの隙間を閉じた描写が無かったので、後半になるまで蜂はここで全滅したのかと思ってしまいました。
肝心の襲撃シーンの描写も、安っぽいCGで描かれた蜂が画面中をブンブン飛び回る中、襲われてる俳優が喚きながらジタバタするというもので、あまり怖くないです。しかも、蜂の動きと俳優の動きに妙なズレが感じられて、いかにも「俳優が、その場に蜂がいない中で演技している」というのが見え見えです。
まあ、それが「つまらない」という感想になるわけではないですけどね。この規模の映画の場合、こういうボロはプラス方面の評価になりますから(笑)。

機内のシーンがそんな感じなので、むしろ、地上のシーンと別れてる構成に助けられたかな、という感じがあります。やはり、機内の描写だけでは90分引っ張れなかったでしょうからね。
さらに、地上シーンにはルトガー・ハウアー演じる悪党が活躍(?)するシーンも出て来ます。エゼキエルという名のこの敵キャラ、とんでもなく嫌で悪い奴です。その悪さレベルは『クリフハンガー』のジョン・リスゴーを彷彿とさせるもので、部下を平気で撃ち殺したりします。リスゴーと違うのは、そういった悪い行動を「楽しそうに(と言うか嬉しそうに)やってる」というところですかね。
そんな大悪党(でも、黒幕ではない)エゼキエルの死に様はかなり素敵でした。多分、「あっけない最期でつまらない」と思う人もいるかもしれませんが(と言うか、普通はそう思う)、私はちょっとたまげましたね。「そんな最期がアリなのか!?」と。

地上の敵であるハウアーはそんな最期でしたが(一応伏せときます・笑)、空の敵である蜂達は、「飛行機のドアを開けて全部外に放り出す」という強引な技で一気に処理されます。ちなみに、同じく動物パニックとエア・パニックを融合させた『エア・スコーピオン』と同じ手法ですね。あちらは一緒に乗客も一人吹っ飛びましたが、こちらは蜂だけ出す事に成功しました。

ただ、なぜか操縦席に一匹迷い込んでいて、機長が刺されてしまいます。
もうお分かりですね。これで、B級エア・パニック名物、「最後は素人が機を着陸させる」のお膳立てが整ったわけです。まさにノルマ達成。そして、アンの元夫のマーティンが、意識朦朧としている機長の指示で無事に飛行機を着陸させてくれます。めでたし、めでたし。
ただ、動物パニック名物「ラストショットが生き残った動物」というのはありませんでした。やっぱり、動物パニックの要素はあくまでも「おまけ」という事なんでしょうね。