この映画が、ただ単につまらないだけの駄作だったなら、私も見終わった後には内容をサラっと忘れられた所なんですが、きっと、出来のいい映画なんでしょうね。見終わってからもずっとイヤ〜な気分が残るんですよ。
でも、別に「悲劇」という内容の話ではないんで、監督の思惑としては、「映画を見終わった後、観客に嫌な気分を味わせてやろう」というものでは無いと思うんですよ。むしろ、「もっと人に優しくしよう」みたいな感じの事を思って欲しそうな感じがあったようななかったような。
でも私は、この映画を見終わった後、ひたすらに沈んだんですよね。鬱病にかかったんじゃないのかと思うぐらいに沈みましたねぇ。
何でこんなに見終わった後に暗くなったのかといいますと、「3つの国で4つのエピソードが交互に出て来る」という内容なんですが、まず、そのそれぞれで大変な出来事が起こってるわけですよ。
で、その巻き起こる悲劇的なエピソード群が、たまたま起こってしまったものだったり、後先考えないバカが暴走した為に起こったものだったりと、言ってみれば、本来は起こらなくてもいいような事態なんですよね。
で、それが起こった後、回りに助けてくれる人がいなかったり、助けてくれる人はいるけど、いかんともし難い状況だったりとかするんですよ。もう見ててイライラしてしまいましたね。「誰か何とかしてやってくれ!」と。特に、メキシコのおばちゃんのエピソードは、もう、あまりに気の毒過ぎて見てられませんでした。こういうの、ほんと嫌ですね。
嫌な展開があっても、後に「最後にみんながハッピーになって終わる」とかなるんならまだいいんですけど、そういうわけでもないですしねぇ。悲劇ではないんで、酷い終わり方ではないんですけど、救いも特にあるわけではないという。金払って人の不幸を見て、何の得があるんでしょうかね。
あと、映像が何か汚いんですよ。特に、日本のパートなんて最悪でしたね。出て来る人も気持ちの悪い、魑魅魍魎みたいな連中ばかりでしたし、胸糞悪くなりましたよ。「俺はこんな世界に住んでるのか」と思って愕然としてしまいましたね。もう、この世界に自分が存在している事、この世界で息を吸ってること自体が耐えられないと思うぐらい、全てが心底嫌になりましたね。
と言う訳で、久々に「見なきゃよかった」と後悔するような映画でした。思い出しただけで不快感がぶり返してきて吐きそうになってきます。 でも、続けて『ロッキー・ザ・ファイナル』を見たおかげで元気に復活できました。ありがとう、スタローン!正直、『バベル』を見た後すぐに『ロッキーF』を見られる環境じゃなかったらと思うとゾッとしますね。
注:一応書いておきますが、『バベル』は見た人を不快にするのが目的で作られた映画ではありません(多分)。たまたま映画の負の部分が私にクリティカルヒットしただけです。
と言う訳で、映画を見てる最中、及び、見終わってすぐの頃は「こんな映画になってしまったか」みたいな事を思っていたんですが、段々と時間が経つにつれて、いい映画だったような気がしてきたんですよ。
まず、今回の“復讐者レクター”というキャラクターも、よくよく考えるとアリかなと思えたんですよね。これはこれで、仕置き人みたいでカッコいいじゃないですか。しかも、その復讐の仕方も凝ってましたからね。ただ殺すのではなく、たっぷりと恐怖を味わせてから殺すんです。
また、映画全体の雰囲気もダークな感じがあって良かったです。見てる間は少々暇な感じがしたんですが(笑)。出来れば、『ハンニバル』みたいな、明らかに無茶し過ぎなグロシーンとか出てきて欲しかったんですが、あんまりやり過ぎると品が悪くなる可能性もありますからね(『ハンニバル』も、ゲテモノ映画に片足突っ込んでるような代物でしたからねぇ・笑)。
そして、レクターがいかに悪に染まっていったのかの部分も、色々考えると納得出来るような気もしてきました。
子供の頃に酷い体験をしたからといって、必ずしも悪に走るわけではない。だから、もう一つ何かしらの理由が語られるのかと思っていたのですが、出て来るのは、最初のきっかけだけでした。でも、映画では語られてない空白の8年の間にレクターが住んでいた、あの孤児院みたいな場所の環境がマズかったんじゃないかなと思うんですよね。しかも、元は自分の住んでた家だったわけですし。きっと、あそこで後のレクターの原型が形作られていったんでしょうねぇ(勝手な想像ではありますが・笑)。
さて。今回、若きレクターを演じる事となったギャスパー・ウリエルという人、かなりプレッシャーの大きい役だったと思うんですが、かなり良かったですね。後にアンソニー・ホプキンスになりそうにない雰囲気の顔でしたが(爆)、あの狂気と知性を同時に秘めてるような眼差しとか、「いかにも、後に大物殺人者になりそうだ」というのが感じられていいです。やっぱり、その辺のケチな連続殺人鬼とは格が違うなというのがよく感じられました。
ところで、宣伝では「殺人鬼レクターのルーツは日本にあった!」みたいな事が言われてましたけど、そんなに絡んでこなかったような気がしましたね。殺しの手口に影響があったのと、最初の殺人の後押しをちょっとしたぐらいで。
あの時点で日本文化に触れた事がレクターにどれだけの影響があったのか、というのを考えてみたんですけど、どうなんでしょう。そんなに影響あったんですかね。私にはよく分かりませんでした。
で、この映画を見て楽しめたのかと言うと、まあ、楽しかった事は楽しかったんですが、別に見なくても後悔しなかったような映画でもありましたね(笑)。少々退屈で、田舎臭い感じでした。
でも、いつも派手な都会派っぽい映画ばかり見てるんで、時々こういうのも見ておいた方が気分転換になっていいかもしれないですね。
さて、ストーリー面の話ですが、見る前はもっとファンタジックな話を想像していたんですよね。それが、貰った犬が血統書付きのかなりいい犬だったという事で、ドッグショウに出る事になって、種付けで大金が転がり込むとか、何だか妙に現実的なストーリーなんですよ。ここはちょっと意表を突かれましたね。
そこはまあいいんですが、悪い意味で想像と違っていた所もありしまた。それは、期待していた「犬との交流」という面があんまり描かれてなかった、という点です。主役のおっちゃんと犬のボンボンが「いいコンビ」というように見えなかったんですよね。最後の最後で「自分にとって、この犬の存在はかなり大きなものだったらしい」というのに気付くことになるようで、それまでは、可愛がってるのか、金のなる木だから手放さないのかがよく分かりませんでした。まあ、「そういうストーリーの映画」という事なんですけどね。
でも、時々出て来る、犬を車の助手席に乗せて走る場面は非常に微笑ましくて良かったです。この犬、普通の大型犬サイズですが、助手席に座ってるとかなりデカいんですよね。人と同じぐらいのサイズがあるように見えるんです。そんな犬が助手席に無表情で座ってる映像は中々ツボでした。
同時に、「こんなふうに、ブタを助手席に乗せたいな」なんて事を思ってしまいましたよ。でも、私は免許を持ってないので、私の方が助手席に座ろうか。ブタも頭がいい動物なんで、覚えさせれば車の運転ぐらい出来んだろ。無理かね。
ちなみに、この映画で出て来る犬は“ドゴ”という猟犬で、珍しい品種なんだそうですね。劇中でも、「イノシシと戦った」みたいな武勇伝が語られたりするんですが、肝心のボンボンはかなりおとなしいヤツでしたね。元の飼い主が死んで以来、長いこと遊んでくれる人がいなかったようなんで、寂しがり屋になってしまったのかもしれないですね。なので、主役のおっちゃんとの交流のシーンとか見たかったんですけど、それは「映画が終わった後のストーリー」、という事になるんでしょうね。
また、キャスティングも割と豪華で、主要登場人物のほとんどが他の映画で見た事のある顔だというのも良かったです。映像も凝ってて見応えがありましたし、次々襲い掛かるトラブルと、それに対処するクルー達の奮闘ぶりも見ててドキドキのハラハラでした。
そんな映画なので、「これは、ダニー・ボイル最高傑作なのでは!?代表作の『トレイン・スポッティング』は見てないけど」とか思いながら見てたんですが、最後の最後で何だか訳が分からない展開になって、「ああ、また私はこの人に置いてきぼりにされたのか」なんて事を思うハメになってしまいましたねぇ。
『ザ・ビーチ』にしろ『28日後』にしろ、何か最後まですっきりと見させてくれないんですよね。きっと、一般客が簡単に理解出来るような映画を撮るつもりなんてないんでしょうなぁ。評論家とかコアな映画ファンとか、映画を見る目のある人のみに向けて作ってあるんでしょうよ(多分、偏見・笑)。
そういった、テーマ的な面だけでなく、ストーリー自体も面白いものでしたね。シリーズを全く見てなくても、この『ファイナル』から入ったとしても十分楽しめるような話になってるのはいいです。私も実はこのシリーズには特に思い入れというのが無いもので、「ファンしか楽しめないような映画だったらどうしよう」と見る前はちょっと思ってたんです。
でも、妻のエイドリアンを失った事に対するロッキーの深い悲しみというのは、過去5作の二人の関係を見続けていなくても、序盤のロッキーの言動を見てれば想像出来ますし、伝わってくる事ですからね。
その他の、ロッキーを取り巻く人々との人間関係もゆっくり丁寧に語られていきますし、第一、かなりデカい役であるマリーなんて、ほぼ初登場に近いぐらいのキャラクターですからね。「1作目に出てた」なんて、よほどコアなファンじゃない限り覚えてないでしょう(笑)。
で、ポーリーやマリー、スパイダーといった面々との交流に、“下町人情話”な雰囲気がある所がいいんですよね。平和な感じで。「アメリカ版寅さん」かと思うぐらいですよ。
スパイダーとかマリーの息子のステップスなんて、本来はいなくても問題無いようなキャラクターなんですよね。でも、やっぱり存在する事によってストーリーに面白味が確実に増してると思うんですよ。ステップスが試合のシーンでセコンドとしてついてきてるのを見ると(この時、ほとんどセリフも無いぐらいなんですけど)、「これでコイツは不良の道に進む事もなくなったんだな」と、ちょっと嬉しい気分がするんですよね。
あと、ロッキーと対戦する事になる現チャンピオンのディクソンに関するドラマも面白かったですね。一生懸命戦ってるハズなのに、そして結果もちゃんと出しているのに世間から認めて貰えないという、不運のファイターみたいな感じで、感情移入出来るキャラクターです。むしろ、こっちが主役でも面白い映画になったんじゃないかと思うぐらいですよ(ロッキーが主役の方が面白いでしょうけど・笑)。
私が、スタローンの脚本が凄いと思う所は、こういう、脇役や敵役に至るまで、軽いエピソードやドラマを入れて、その人物の過去や内面を想像する余地を観客に与えてくれている点ですね。敵役がただの悪役で終わってないんです(アクションメインの、ドラマ性の薄い映画の場合はその限りではないですが)。主人公と同じ、一人の人間として描かれているんですよね。だから対決シーンが燃えるんですよ。
そんな中、私が一番感動したエピソードは、ロッキーと息子関連の話でした。この二人の関係だけで一本のドラマ映画が出来るんじゃないかと思うぐらい面白かったです。
特に、お互いが本音をぶつけ合うシーンの感情の迸り合いの迫力は凄かったですね。ジュニアの言う事も、実感は出来ないですが理解は出来るものです。私も親が偉大だったらこう思っただろうなと。それに対するロッキーのセリフが熱い事。心にズシンと来ましたね。こんなふうに若者を叱ってくれる大人っていいなと思いましたよ(でも、相手が他人だったらロッキーもここまで熱くならなかったでしょうけどね)。
あと、どうでもいい事ですが、ロバートを演じていたマイロ・ヴィンティミリアという人、中々いい男でしたね。これからの活躍に期待したいです。でも、名前は覚えられない気がします(笑)。
ストーリーも最高ですが、音楽も最高でした。ロッキーが奮起し、トレーニングを開始しようとした時、あのお馴染みのテーマ曲が大音量で流れ出した時は、全身がゾクゾクしましたよ。「これが『ロッキー』か!」みたいな事を思ったものでした。私はこのシリーズを映画館で見るのはこれが初めてなんで、この名曲を映画館の音響設備で聞けたというのは感激でしたね。
さて。この映画の凄い所は、ストーリーやテーマ性、音楽だけではありません。劇中のロッキーのストーリーと、演じるスタローンのハリウッドでの状況が重なって見えるという、他の映画ではおよそ考えられないような面がある所です。
今世紀に入ってからというもの、スタローンの落ち目っぷりはもう酷かったですからね。大作映画を作ってはコケ、小粒な映画に出ては未公開扱いにされ。もう、世間からは完全に忘れられた存在みたいになってましたからね。私ももう復活は無理だと思いましたよ。奇跡が起これば可能かもしれないけど、限りなく絶望的だな、と。
そして、『ロッキー』の新作を撮ると聞いた時には、私はスタローンの新作が作られるというだけで嬉しかったですが、「きっと世間には興味を持ってもらえないだろうな」と思ったものでした。むしろ笑いものにされるんじゃないかと。この辺り、『ファイナル』の中盤までのロッキーの姿そのままみたいですよね。
ですが、その後はご存知の通り、『ロッキー・ザ・ファイナル』大ヒット。スタローン大復活ですよ。正直、一俳優にここまでの事が出来るなんて今でも信じられないぐらいです。何せ、“未公開スター”まで落ちたんですからね。でも、奇跡の復活をやってのけたんですよ、スタローンは。しかも、その奇跡を自分の力で起こしてるという所には、畏敬の念を抱かずにはいられません。
こんなふうに、主演俳優が映画のテーマを実践して成功してる、というのはほんと凄い事ですよね。確かに、ハリウッドにはスタローン以上の演技力を持った人はいるでしょうけど、ここまで映画とシンクロ出来る人は他にいないでしょう。もう演技力だけでは到達出来ない次元ですからね。
やっぱり、自ら脚本を書け、監督も出来るからこそ、こんな前人未到なマネが出来たんでしょうね。それに、「人生に対する真摯な態度」というのもあったんでしょう。何か、スタローンの事を筋肉バカだと思ってるアホウも世間にはいるみたいですけど、実際はマルチな能力を持った才人なんですよ。
ちなみに、“『ロッキー・ザ・ファイナル』大ヒット”と言っても、同時期公開の『ナイト・ミュージアム』には興収で惨敗しました。でも、大事なのは勝つ事ではなく、挑戦する事なんです。それに、「どっちが印象に残る映画か」となると、圧倒的に『ファイナル』の方なんですよね。私はベン・スティラーも好きですし、『ナイト・ミュージアム』も実に面白い映画だったと思います。でも、『ファイナル』と比べると“普通の映画”でしかなかったな、と思ってしまいます。
何か、とりとめが無くなってきて、この感想をどう終わらせていいのか分からなくなってきたんで(笑)、とりあえず「要するに私が言いたいのは、『ロッキー・ザ・ファイナル』とスタローンは凄い!という事だぜ」という一文で強引に締める事にします。