7つの贈り物(ネタバレ感想)

さて、主人公は、7人もの人が死亡する事故を引き起こしてしまい、その贖罪の為に、7人を助けようという計画を立てていたようでした。そして、その計画には、「最終的に、自分も死ぬ」というのも含まれているようです。
多分、本来ならば、事故の後に罪の意識に耐えかねて自殺をしようと考えていたところ、何かのきっかけで「その前に、罪滅ぼしとして、7人を救ってから死のう」と考えるようになったんでしょうね。
で、この映画の否定的意見として、「自らの命を絶つというのは、罪に対する逃げだ」というのと、主人公が勝手に助ける人を選んで、善意を押し付けているというのが自己満足に思えて気に入らない、というのがあるようです。
後者の意見は私にはよく分からないんですが、前者は納得出来る反論だと思います。本当に罪滅ぼしを考えているのなら、7人なんて限定せず、生有る限り善行に務めるべきなんですよね。多分、これが人として正解の意見なんでしょう。
でも、私は「死をもって償う」というのが半ば美徳ともされている国に育ったせいか、主人公の決断を素直に受け入れられてしまうんですよね。それに、もし私が被害者の家族だったとしたら、事故の原因を作った奴は死ねばいいと思う事になりそうですからね。
なので、多分、この映画のラストに賛成派の人は「死刑容認派」もしくは「偽善者」で、否定派の人は「死刑反対派」あるいは「正しい道徳観の持ち主」になるんじゃないかと思ったものでした。私はかなりのレベルの偽善者なんで、もう余裕で賛成派ですよ(爆)。先に書いたように、この映画のラストには大感動しましたからね。
ただ、それは最後に罪を犯した主人公が死んだから感動したというわけではなく、死を選びたくなるほどの心の傷を背負った主人公に同情したからというのと、その行動によって人生が変わるほどの助けを受けた人達がいたからでした。
基本的に、自己犠牲の精神というのは大好きなんですけど(そう思うだけで、それを私自身が実践するかどうかはまた別の話・笑)、こういう「命を賭して」みたいなのは非常に分かり易い自己犠牲ですからね。「生き抜いて、人助けを続行」なんて、テレビドラマでじっくり語るんならいいですけど、2時間で話を終わらせなきゃいけない映画では感動が伝わりにくいでしょうし、何よりも、「お涙頂戴映画」では、最後に誰かが死なないといけないんですから。

そもそも、主人公のベン(本名はティムらしいですが)は、事故を起こしたにも関わらず、逮捕も起訴もされてないっぽいんですよね。という事は、法的に事故の責任を負わなきゃいけない立場にいないんじゃないかと私は思ったんです。
だから、ベンは贖罪なんて考えず、そのまま自分の人生を続けていても良かったんじゃないんだろうか。でも、自分に確実に過失があったというのが良く分かっているんで、7人の他人+愛する妻の命の重みというのが心に圧し掛かってくるわけですよ。
そこで、ただ単にこの世におさらばするだけに止めず、自分の家や臓器を使った“捨て身の善行”をする事にした、というのは、大した行動力だと思うんですよね。
多分、弱い人間ほど「現世の全ての厄介事を放棄し、死の世界に逃れたい」という事を思ってしまいがちなんだと思います。そして、ベンも「罪を背負ったまま生きる」という選択が出来なかった、弱くて臆病な人だったんでしょう。
でも、ただ逃げるだけじゃなく、「報われない善人」というのを探し出して助けるという使命を科して、それをやり遂げるまでエスケープ・フロム・人生を延期するという道を選んだんですからね。私としては、むしろ尊敬に値するぐらいですよ。
もしかしたらこの映画、主人公を強い人間と見るか弱い人間と見るか、という所でも評価は分かれてくるのかもしれないですね(偽善者だからとかは関係無しに・笑)。
確かに、この主人公を精神的に強い人間と思うなら、罪と正面きって向き合わない所にもどかしさを感じたり、行動が自己満足に思えるというのも理解出来るような気がします(そう思うと、何度も地球を救った男、ウィル・スミスが演じるのはミスキャストだったのかもしれないですね)。
でも、私には、「心の弱い人間が、自分の出来る中で精一杯の事をやった」と思えてしまうんですよね。かく言う私も、生まれたての子豚のごとく弱くて臆病なタイプなので、ベンが最終的に選んだ道も、人として正しい道だとは思わないですけど、理解は出来るんですよね。そして、この「心の弱さ」というのを批判して欲しくないとも思うんです。そりゃ批判する側の人達はきっと強靭な精神力を持っていて、どんな時でも、確実に人として正しい行いをする事も出来るんでしょうけどさ。それが出来ない人もいるんですよ(こんな事を言っても、負け犬の遠吠えでしかないんですけどね)。

ただ、そんな私でも、ベンの行動に一つ、合点のいかない所がありました。
それは、善行の対象が、何故事故の遺族ではないんだろう、という点です。
善行の対象が、何で全くの他人じゃないといけなかったのか、という辺りが分かると、この映画が本当は何を言いたい映画なのか、というのが見えてくるような気がするんですけどね。
いや、人の心の弱さなんて、きっとこの映画のテーマなんかじゃないですよ(爆)。上記のは私の単なる感想ですから。


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